アザラシ、パンダ、赤ちゃん型……。人の気持ちを和ませる「癒やし系」ロボットの開発が進んでいる。名前を呼ぶと大きな目でこちらを見るアザラシ型ロボット「パロ」は福祉施設で人気だ。ロボットに癒やされる時代になったのだろうか?【岡礼子】
「マルちゃん、いい子だね」。茨城県つくば市の老人保健施設「豊浦」。80〜90代の入所者男女8人が待つテーブルに3体のパロが運ばれてきた。呼び掛けに応じてパロが鳴き声を上げると、笑顔が広がった。「この子が一番かわいいよ」「3姉妹かな」
パロはアザラシの赤ちゃんを模したロボットで産業技術総合研究所(産総研)が開発した。体長57センチ、体重2.7キロ。体温は30度に保たれている。手作りのため1体ずつ微妙に顔が違う。触感や音に対するセンサーがあり、なでると目をぱちぱちさせ、声がした方を見たり鳴いたりする。
「豊浦」では週に何度か娯楽用に使っている。介護士の成島香織さんは「表情の変化に乏しい人が笑顔になったり、いらいらしている人が落ち着く」と話す。みなパロがロボットだと知っているが、「かわいらしさにひかれ、動物のように接している」という。
癒やし系ロボットはここ数年、商品化され始めた。パロは05年に35万円で発売、これまで1300体が売れた。開発した産総研の柴田崇徳さんによると、日本では7割が個人購入。動物が好きな60〜70代で、住居の問題などで飼えない人が、ペット代わりに求めることが多い。米国でも昨年11月に販売を始め、自閉症児向けのセラピー(心理療法)として使われているという。
早稲田大の可部明克准教授は、笑顔の度合いを検知して、笑うまで話しかけるパンダのロボットを開発中。頭をなでると「じゃんけんしようよ」と持ちかけ、「グーしか出せないんだった」とぼける。泣きまねやだっこをせびるなど、約30種類の反応を示す。
お年寄りを慰め介護現場の人手不足を補おうと、可部准教授は赤ちゃん型も考案した。認知症患者に子育てを思い出してもらって脳を刺激し、進行を抑える効果を狙う。外部と通信して無事を知らせる機能も付く。
名古屋工業大学と地元企業は産学連携で、5歳児程度の会話ができる「ifbot」(イフボット)を開発。04年から19万8000円で販売されている。配偶者を亡くした高齢者や長期入院患者が利用している。
癒やしロボットは広まるのだろうか。「豊浦」の理学療法士は「本来は人が相手するのが一番。でも、おばあさんが縁側で猫に話しかけるように、高齢者が本音を出せるロボットが開発できれば役に立つ」。一方、犬型ロボットによるセラピーとアニマルセラピーの経験がある横山章光・帝京科学大准教授は「ロボットは『ごっこ遊び』で結局飽きる。コミュニケーションを盛り上げる介在者の存在が不可欠だ」と分析している。
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